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歌舞伎座ほか全国の公演情報

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  • 尾上菊之助
    インタビュー 尾上菊之助
    歌舞伎座新開場柿葺落 七月花形歌舞伎
    7月4日(木) ~ 28日(日) 歌舞伎座(東京)

  • 端正な美貌と清楚な色気で女形から二枚目までこなす五代目尾上菊之助。7月、歌舞伎座が新しくなってからは初めての“花形歌舞伎”と銘打っての公演に出演する。昼の部では『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』で二代目尾上とお柳の方の二役を。本作は、加賀百万石のお家騒動を題材とした『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』の後日談。先代の中老・尾上の仇を討ったお初は、今や二代目尾上に出世している。だが、討たれた岩藤が亡霊となって悪事をなす。「骨寄(こつよ)せの岩藤」とも言われる狂言で、岩藤の宙乗りも見どころのひとつ。夜の部は『東海道四谷怪談』のお岩を初役で演じる。元々は尾上家の家の芸でもある。佐藤与茂七、小仏小平にも扮し、3役を早替わりで見せる。ふだん上演されない「蛍狩」の場も歌舞伎座では30年ぶりに復活。昼夜とも通し狂言で、初役を勤める菊之助に抱負を語ってもらった。

    『加賀見山再岩藤』~忠義の女と悪女の二役~

    ――昨年は15もの初役を演じておられますが、今回もまた初役ばかりですね。

    そうですね。『加賀見山再岩藤』では、二代目尾上と側室のお柳の方の二役を勤めます。二代目尾上はお家を必至で守る善人、お柳の方はお家転覆をはかる悪人。両極なのでやりがいがあります。ことにお柳の方は、男を色気でたぶらかす悪い女なので、思いきって演じてみたいと思っています。

    ――これまでにお初を演じていらっしゃいますが、二代目尾上を演じる上で役に立ちますか?

    『加賀見山再岩藤』二代目尾上
撮影―加藤孝
    『加賀見山再岩藤』二代目尾上
    撮影―加藤孝

    それはあると思います。お初をやらせていただいて、尾上の無念さやお初の忠義はよくわかるので。最初から御殿女中だったわけではない二代目尾上の複雑さを、うまく表現できるといいですね。頑張りたいと思います。

    ――お柳の方はお家転覆を狙う役で、これもまた面白い役なのではないですか?

    お家転覆を計画するのは兄の弾正(片岡愛之助)で、お柳の方は言わば、悪の片割れ。悪役は作りこんでいく面白さもあるし、悪には悪の方程式があって、そういうものを追及していくのも面白いです。やっていて楽しい(笑)。ただ、お柳の方は、弾正のために動いているので、率先して悪になっている感じはあまりしないんですよね。お初が初代尾上に尽くしたように、弾正に尽くしている人だと思います。立ち役の悪人とは違って、悪の開放感はほとんどありませんけど(笑)、やりがいはありますね。ただ、とても色気のある役だと思うので、女性特有の艶っぽさが必要だと思っています。

    『東海道四谷怪談』~三代目菊五郎への挑戦

    ――『東海道四谷怪談』は鶴屋南北の傑作ですね。初役の意気込みはどんな?

    近年はどういうわけか、六代目尾上梅幸以来、音羽屋(菊之助の屋号)では手掛けていませんでした。梅幸のお弟子さんだった梅朝さんから17代目勘三郎のおじさまや歌右衛門のおじさまに型が伝わって、昨年亡くなられた18代目勘三郎のお兄さんへと継承された、歌舞伎の伝統の厚さを感じる演目ですね。私の先祖の三代目菊五郎が初演して、生涯の当たり役として9回も演じています。その当時、文化文政の頃、早替わりとか仕掛けが斬新で、とても面白かったのだと思います。南北の「人間の抱えている闇の部分を描く」手法と、文化文政の華やかな文化的背景とが、うまく合って生まれた演目だと思います。当時に思いを馳せながら、三代目菊五郎に対する挑戦だと思って、今回演じたいと思っています。

    ――どなたにお習いになられるのですか?

    玉三郎のお兄さんに教えていただきます。5、6年前に、中村屋(勘三郎)のお兄さんが「全部教えるから、やれ!」と言ってくださっていたのですが、なかなか機会がなくて…。でも、こうして、歌舞伎座の杮葺落公演の4か月目で、同世代の染五郎さん、松緑さん、愛之助さんたちとやらせていただけるのは、嬉しいことですし、また緊張感もあります。初役のお岩は、私自身とても楽しみです。

    ――お岩は、どんなところが魅力だと思われますか?

    『東海道四谷怪談』お岩
撮影―加藤孝
    『東海道四谷怪談』お岩
    撮影―加藤孝

    伊右衛門と夫婦ですから、仲のいい幸せな時期もあったと思うんですよ。でも、その部分は舞台では「蛍狩」の場以外出てきません(苦笑)。何かが掛け違ってしまった、不幸な関係になってからの姿をお見せするので……。お岩さんにしたら、殺された実父の仇を(夫に)討ってほしい気持ちがありますから、そういう計算も立つ女性ですよね。ですけど、伊右衛門のことが本当に好きで、一途ですし、落ちぶれても武家の女としてのプライドも持っている、非常に魅力的な女性だと思います。だけど、伊右衛門をはじめ、直助や伊藤喜兵衛など、男たちの悪の前に儚く散ってしまい、それが恨みとなって、死んでまで祟るという構造になっていると、私は思っています。女の怨念の怖さはしっかり演じたい。現代は、夜でも街中がどこも明るいですけど、『四谷怪談』をご覧になった後、2~3日くらいは、暗い所に行きたくないと思っていただけるといいなと思っています(笑)。

    ――そうした闇に対する怖さや憧れは南北独特の雰囲気だと思いますか?

    黙阿弥の勧善懲悪の魅力とはやはり違いますね。大川にさっと風が吹き渡るような黙阿弥作品に対して、南北は底なし沼のドロリとした感じがします。そういう人間の深い闇の部分を演じられればなと思います。

    ――今回、久しぶりに幻想的な「蛍狩」の場が上演されるそうですが。

    歌舞伎座では30年ぶりだそうです。その「蛍狩」をどうしようかと、先日も伊右衛門役の染五郎さんから早々にお話してきてくださいました。伊右衛門が七夕の日に美しいお岩と一緒にいるという夢の場なんですが、やり方はいろいろあるんですね。今回は「蛇山庵室」の場と一対になっているようになるのではないかと。「蛍狩」で、一瞬、お客様にふっと気を抜いていただいて、きれいな場面をおみせしたい。伊右衛門とお岩の幸福な時から一瞬でガラッと(凄惨な場の)「蛇山」に変わるのをお見せできればいいなと思っています。

    ――数ある怪談物の中でも傑作な理由は何だと思いますか?

    『(仮名手本)忠臣蔵』(※1)の外伝というところもあると思うんです。伊右衛門は塩冶家(※2)の浪人で、伊藤喜兵衛は高師直(※3)の家臣ですから。元々、『忠臣蔵』と『四谷怪談』は交互上演されたものですし。『忠臣蔵』が忠義を讃える表の顔なら、『四谷怪談』は、裏の顔で、武家と庶民、武家と市井の人の対比が出ていたり、風刺が巧みに入っています。想像ですけど、女性や庶民が虐げられていた時代に、南北は虐げられた人たちの痛みや恨みを描きたかったのではないかと。それを見て市井の人たちは喜んだのではないかと思います。今は時代が変わりましたけど、女性の恨みの深さや、人に裏切られた悲しさは、普遍的なものではないでしょうか。
    (編集部註※1:元禄赤穂浪士事件を太平記の世界に置き換えている。また、登場する名前もそれに倣い変えている。※2:浅野家 ※3:吉良上野介)

    ――“戸板返し”や“提灯抜け”などの仕掛けもたくさんありますね。

    早替わりも含めて、そうした面白さはありますね。今回、仕掛けは全部やろうとは思っているんですが、まだ相談中です。早替わりは自分も大変ですが、周りがもっと大変なんです(苦笑)。事故が起きないように、(スタッフの)皆さんがとても気をつけていらっしゃいます。

    ――体力のある今のうちに経験しておきたい役ですか?

    そうだと思います。先輩方も30代、40代でいろいろな役をされてきているので、私もこういうチャンスが与えられることに対して、本当に感謝して、毎回、初役に挑んでいます。初役で経験して、何年か経って、同じ役を演じるのと、また違いますからね。若くても一度経験しておくのは、とても大事なことだと思います。

    ――『四谷怪談』を上演する時は、お祓いをしたり、お参りに行かないと、悪いことが起きると言いますが、今回お参りは?

    はい、お参りに行きます。お岩様の御札をいただいて、楽屋に置いて、御燈明や塩をあげてお祀りすると聞きましたので、ちゃんとご供養してから演目に挑みたいと思っています。あまり、幽霊とかは信じないんですけど、信じる信じないは別として、何かあるといけませんから。

    ハイパーモダンな歌舞伎を

    ――この何年か、初役がとても多いですね。チャレンジするなら今?

    中村屋(勘三郎)のお兄さんと、團十郎のお兄さんが亡くなってから、もっと歌舞伎を死に物狂いでやらないといけないと、以前よりずっと強く思っているので。歌舞伎にかける時間がすごく増えた、と言うよりは生活が歌舞伎しかないですね。

    ――たくさんの初役はどのように蓄積されていますか?

    本当に1日が濃いので、5月の(歌舞伎座で演じた)『二人道成寺』が3か月前くらいに感じられるんです(笑)。あっという間に時間が過ぎていくんですが、毎日、乗り越えるべき課題が山のようにあるので、それで精いっぱいで、でも、少しずつ蓄積はしてるのではないかと思います……していてほしいです(笑)。

    ――これからやっていきたいことは?

    時代物に対して、世話物がないと、面白くないと思うんですよ。私にできるかどうかは分かりませんが、父の手掛けている世話物の立役は、これからもっと手掛けていきたいと思っています。女形では祖父が手掛けておりました『摂州合邦辻』の玉手御前や、『伽羅先代萩』の政岡など、時代物もきちっとできるようになっていきたいですね。政岡は演じてはいますが、「飯炊(ままた)き」(※4)を、まだ勉強していませんし。平成中村座で、『寺子屋』の源蔵をやらせていただきましたが、中村屋のお兄さんに教えていただいたことは、自分にとって本当にありがたい教えとして残っています。今、私に何ができるのだろうということを考え続けています。
    (編集部註※4:幼君を毒殺から守るため政岡が自炊する様を、ひとつの芸としてみせる有名な場)

    ――次代を担う歌舞伎俳優として、その覚悟はいかがでしょうか?

    先月、玉三郎のお兄さんと『二人道成寺』をご一緒させていただいたり、先輩方と共演させていただくたびに思うのは、受け継がれていく伝統の濃さを薄めてはいけないということです。伝言ゲームのように人から人へ伝わる間に、変換が起きることもあるわけですよね。もちろん、変換するから面白いところもありますが、一番大事なのは口伝だと思うんです。自分がこうしたいより、口伝に忠実でありたい。また、先輩たちが歌舞伎座で3か月間、毎月27日間も舞台に立っている姿を見ると、今まで以上に集中しなければと、身が引き締まりますね。

    ――新作歌舞伎などにも興味はおありですか?

    ありますが、同時に私は江戸歌舞伎は文化文政時代に花開いたハイパーモダンだと思っているんです。私の夢は、江戸時代の身体使いで、浮世絵のような劇場空間で、江戸時代の歌舞伎をすること。そのために江戸時代の時代考証の専門家の方や、江戸時代の身体使いの研究をされている方とお話をして、今、検証を進めているところなんです。それが、いつかはハイパーモダンの歌舞伎になっていくと思っていて。原点の素晴らしさと、後に洗練されていった部分と、両方を見据えたいと思っています。

    ――7月は花形歌舞伎で、同世代が集まります。メンバーの結束力は?

    松緑さんとは、よく一緒に舞台を勤めていますし、染五郎さんとは『二人椀久』でご一緒しました。愛之助さんとは久しぶりですが、同世代で花形歌舞伎ができるのは、とてもうれしいことです。9月には、古典と新作がありますし、機会が増えるのはありがたいですね。

    ――7月は昼夜、ともに通し狂言です。

    はい、精いっぱい勤めます。通し狂言ですから、物語の発端や細かいところも分かって、楽しんでいただけると思います。



    取材・文:沢美也子

    プロフィール

    尾上菊之助(おのえ・きくのすけ)
    1977年生まれ。七代目尾上菊五郎の長男。屋号は音羽屋。1984年2月、歌舞伎座『絵本牛若丸』で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台を踏む。1996年、歌舞伎座『白浪五人男』の弁天小僧、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精で、五代目尾上菊之助を襲名。『助六由縁江戸桜』の揚巻、『伽羅先代萩』の政岡、『摂州合邦辻』の玉手御前、『雪暮夜入谷畦道』の片岡直次郎、『籠釣瓶花町酔醒』の八ツ橋など、数々の大役を勤める。その一方、蜷川幸雄演出の『グリークス』にも出演。2005年にはシェイクスピアを歌舞伎に翻案した『NINAGWA十二夜』を発案し、主演した。

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